シンデレラは王子様と離婚することになりました。
ヘリコプターが目の前にある時点で予想していたとはいえ、心の準備も一切なく乗り込むのは勇気がいった。

「高い所が苦手だった?」

 私を気遣うような大翔の瞳に、首を振って答える。

「ううん、大丈夫。乗ってみたい」

 笑顔で大翔を見つめると、大翔も安心したように目を細めた。
 バラの花束を抱えながら、ヘリコプターに乗り込む。大翔は甲斐甲斐しく私のシートベルトを締め、機内にあった専用ヘッドホンを取り、頭に装着してくれた。
 そして、自身もシートベルトを締め、ヘッドホンを装着すると、パイロットに合図を送る。
 すると、ひときわプロペラの音が大きくなり、浮遊した。

「わあ、本当に飛んだ」

 まるで遊園地のアトラクションに乗っているような気分だった。心臓がドクドクして、大翔の手を握ると、しっかりと恋人繋ぎをして私を安心させてくれる。
 東京の夜景は、まるでジオラマを見ているかのように非現実的だった。地上から見上げると聳え立つように大きく感じるビル群も、上から見下ろすとまるでおもちゃのようだ。

「凄い、綺麗」

 感動しているのに、自分の語彙力の低さに呆れる。隣に座っている大翔は、夜景よりも喜んでいる私を見つめて微笑んでいる。
 バラの花の匂いに包まれながら、非日常感に酔いしれる。

「ありがとう、大翔」

 感動で胸がいっぱいになりながら大翔の目を見てお礼を言うと、大翔はその言葉に胸を打たれたようで、とろけるような笑みを浮かべた。

「ヘリコプター遊覧デートはできても、専用のヘリコプターを持っているのは、日本ではそうそういないだろう」

「そもそも庶民は、ヘリコプターデートなんてしないよ」

 大翔の発言に笑う。規格外のお金持ちだ。

「俺の会社は、平均よりも給料がいい方だと思う。でも、望むもの全てを与えてあげられるほど裕福なわけではない。その点、俺なら捺美の要望に全て応えることができる。エルメスのバッグも、宝石も、海外旅行にだっていつでも行ける」

 大翔はやけに真剣な表情で語りかけた。
 どうしてそんなことを言い出したのだろうと思って、不思議な眼差しで大翔を見つめた。

「俺は誰よりも捺美を幸せにできる」

 確信のこもった声で大翔は告げた。

「私は、お金が欲しいわけじゃないよ」

 大翔を批難するわけでもなく、拒絶するわけでもなく、眉を下げて微笑みを投げた。
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