シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 私が大翔を好きになったのは、お金持ちだからじゃない。大翔が普通の会社員でも好きになっていたと思う。大翔と一緒にいるのは居心地が良くて、自然と胸が高鳴るのだ。理屈じゃなく、ただ大翔が好きなだけだ。

「俺は誰よりも捺美を愛している。断言できる、信じてほしい」

 真剣な眼差しで愛の言葉をぶつけられ、息が止まった。
 一番、求めていた言葉だ。
 私は、大翔の愛が欲しかった。
 胸の奥から込み上げるように、涙で視界が滲んだ。
 これ以上好きになってはいけないと、必死で蓋をしていた気持ちが溢れだす。

「離婚、しなくていいの?」

「しない。したくない。ずっと俺の側にいてほしい」

 溢れた涙が頬を伝う。

「私も大翔の側にずっといたい」

 零れ出た私の言葉に、大翔は身を乗り出して抱きしめた。
 シートベルトをしているから、正面から抱き合えないが、それでも十分気持ちは伝わった。

「佐伯と一緒に海外なんて行くな」

 大翔の言葉に、思考が止まる。

「どうして知っているの?」

 今日、佐伯さんに『一緒についてこないか』と打診されたことを思い出す。

「いや、ちょっと、風の噂で」

 大翔の目が泳いでいる。とてつもなく怪しい。
 抱き合っていた体を離し、私は座った目で大翔を睨み付ける。

「何か勘違いしていない? 私が佐伯さんについていくはずないでしょ。佐伯さんとは上司と部下の関係であって、佐伯さんを男として見たことは一度もないの」

「じゃあ、断ったのか⁉」

 大翔は大輪の花が咲き綻ぶように、清々しい笑顔を見せた。

「だから、どうして知っているのよ」

「会社の人事のことだから、社長の耳に入ってもおかしくないだろう」

 佐伯さんが部長あたりに言ったっていうこと?
 そんなこと話すだろうか。もしかしたら私を海外赴任に連れていってもいいか、佐伯さんが部長に言っていたとか?

「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。そうだよな、俺の方が佐伯より何倍もいい男だからな」

 大翔は満更でもない顔で自慢気に言った。
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