シンデレラは王子様と離婚することになりました。
「佐伯さんは大翔よりも落ち着いていて、真面目で紳士的よ」

「おい」

 大翔は目を細めて、不機嫌な物言いだった。

「佐伯さんの方がタイプとして好きな女性は多いかもしれない」

 大翔の眉が寄る。意地悪で言っているわけではなく、事実だ。

「でも、私は大翔が好き。大翔と一緒にいるとドキドキするけれど、佐伯さんと二人きりになってもときめいたことはないの」

 なぜかはわからない。でも、本能が大翔を求めているのだ。

「そうか」

 大翔は嬉しさを押し殺すように、小さく呟いたけれど、口元の緩みは隠せていなかった。
 だいぶ失礼なことを言ったけれど、まったく気にしていないようで良かった。というよりも、たぶん前半部分は綺麗に忘れている。そういうところも、一緒にいて居心地がいい。
 大翔も口が悪いけれど、私も大概口が悪い。佐伯さん相手なら、こんなことは言えない。
 佐伯さんはとてもいい人だけど、素でいられるのは大翔の前だけだ。

「あのさ、今夜は俺の部屋で一緒に寝ない?」

 大翔は伺うような目で口火を切った。手はしっかりと恋人繋ぎをしている。
 私が返事をできずに固まっていると、畳みかけるように大翔が訊ねる。

「嫌?」

 またずるい言い回し。でも、そういうところも嫌いじゃない。
 私は大翔から目線を外して、煌めくような夜景を見下ろしながら答えた。

「……嫌、じゃ……ない」
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