シンデレラは王子様と離婚することになりました。

 
 大企業の御曹司である大翔と、虐げられた環境で育った私。決して交わることなどない世界で生きてきたのに、このたび私たちは名実ともに本物の夫婦となった。
 互いのぬくもりを感じながら、一つのベッドで眠るとき、胸の中が幸福感に満たされた。
 今までずっと、どこか虚しくて、寂しくて、愛情に飢えていた。
 傷つくことが怖くて、誰にも心を開けずにいた。誰かを好きになるという感情がよくわからなくて、必要以上に近付くことが怖かった。
 人間は怖い存在だと思って生きてきた。悪意のある人間は、罪悪感なく人を傷つけることができて、どんなに正論を投げかけても良心の呵責に苛まれることはない。
 どんなに酷いことをしても、悪いなんて思っていないし、むしろ『この経験はあなたのためになる』なんて、どこをどうやったらそう思えるのか到底理解できない思考回路で自身を正当化させたりする。
 私はどうやら見た目が良く生まれたらしい。それはとても恵まれていることだと世間からは思われている。
 でも、人より優れた容姿を持つということは、それだけ目立ち、嫉妬されるということでもある。恵まれた人間は、多少不幸になっても構わないだろうという謎の論理が発生する。
 私がもっと、上手く人間関係を作れたら、理不尽な足の引っ張りも、私を陥れる悪質な嘘からも、誰かが助けて守ってくれたかもしれない。
 でも私は誰にも心を開けなかったから、誰にも助けてもらえなかった。だから私は、自分で身を守るすべを覚えたし、頑なに人を寄せつけないことで、自分を守ろうとした。
 もっと上手に世の中を渡っていける人からしたら、私はとても不器用で下手くそな生き方なのだと思う。
 でも、誰も上手く生きる方法を教えてくれなかったし、理論としてわかっていても、実際にできるかどうかはまた別の話だ。
 そんな私が、初めて人を好きになった。
 どうして大翔を好きになったかなんて、理由をあげたら数えきれないくらいたくさん出てくるだろうと思うほど素敵な人だけれど、本当の理由は私でもよくわからない。
 強烈に惹かれて、本能で恋をした。理由なんてあってないようなもので、大翔がお金持ちだからとか、優しいからだとか、そういう表面的なものじゃなくて、ただ、大翔だから好きになったといった方がしっくりくる。
 運命の相手だったといったら、ロマンチックすぎるかもしれないけれど、きっと前世から繋がりがあったのではないかと思うくらい、猛烈な引力に引っ張られるように、彼を好きになった。
 大翔を好きになることは必然で、それはあらがうことはできない運命だったのだと思う。
 大翔といると、私は私でいられる。人を好きになる気持ちや、幸せという感情を教えてくれた。
 大翔は私にとって、なくてはならない大切な人だ。
 この感情は、世の中の女性が恋をして、この人は私にとって必要な人だと思う感情よりも強烈で、切実な思いかもしれない。
 きっとみんなは、大切な人や友人がたくさんいるから、こんな気持ちにはならないと思う。
 私の人生に欠かすことはできない人。それくらい、私の中で大翔の存在というのが大きい。
 大翔と出会えて、良かった……。
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