シンデレラは王子様と離婚することになりました。
 それから二人で仲良く夕食を食べ、一緒にお風呂に入って、イチャイチャして幸せな一日が終わった。
 そして、この世の春とも思えるような濃密で幸せな日々はずっと続くのだとなんの根拠もなくそう思っていた。
 一点の曇りもなく、悩みもなく、そんな幸せな日々は数日で幕をおろした。
 あまりに呆気なく、あまりにも短く、あまりにも突然だった。
 いや、予兆はあったのだ。その時に全力で彼女を守っていたら、こんなことにはならなかった。
 捺美の様子が明らかにおかしかった日があった。その日の夜、捺美は俺を拒んだ。

『生理だから』

 と言った彼女の言葉を疑いもしなかったし、体調が悪そうだったのはそのせいかと納得した。
 数日間、身体を重ねることはできなかったけれど、いつものように共寝はしていたし、生理中、女性は情緒不安定になるものだと思っていた。
 過度に心配せず、見守っていることが正しい方法だと思っていた。
 でも、今考えたら、彼女はなにかに怯えていた。日に日に顔が青ざめていって、食べる量も減っていた。
 そして、俺が家に帰ると、テーブルの上に記入済みの離婚届けが一枚置いてあった。
 彼女の荷物は全てなくなっていて、当然、彼女もいない。
『絶対に辞めない』と言っていた会社にも姿を見せず、彼女は忽然と姿を消した。
 なにが起こったのか、なにがあったのか、誰にも一切、告げぬまま。

 捺美がいなくなって二日目。
 警察に失踪届けも出し、探偵も雇って全力で捺美を探しているが、いまだに有力な手掛かりはない。
 社長室の応接ソファには、俺と高城が横に座っていて、俺の目の前には女性社員が一人座っている。
まるで面接のように対面して座っているが、空気は重く緊迫しているので、尋問のような雰囲気が漂っていた。
女性社員の名前は、桂木 昌(かつらぎ あきら)。捺美の態度が急におかしくなった日に、捺美と二人でランチをしていた人物である。
彼女は総合職入社で営業をしている。圧倒的に男性が多い中、物怖じしない性格と頭の良さで同期入社トップの成績をあげている。
髪は短く、目が大きくて顔が小さい。美女というよりは、美少年のような雰囲気だ。
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