シンデレラは王子様と離婚することになりました。
張りつめた雰囲気の中の呼び出しで、普通なら緊張でガチガチになりそうだが、妙に落ち着いている。

「あの日、どうして捺美と昼食を食べに出かけた?」

 まるで容疑者に対する質問のように、きつい口調で問う俺に、彼女は臆することなく答える。

「だから、さっきから言っているじゃないですか。近くに美味しいお店があるって言ったら、あの子が行きたいって言うから、じゃあ一緒に行こうかって流れになったのですよ。社長夫人は、社長の許可がないとランチも行っちゃいけないのですか?」

「なんで捺美と話していた?」

「会話しちゃダメですか?」

「ダメとは言っていない。捺美は仕事と関係のない話はしないようなタイプだろ。どうして捺美と仲良くなろうと思った」

「仲良くなりたいとか、友達になりたいとかそういう目的で言ったわけではないですよ。流れですよ、流れ。あるでしょ、そういうの」

 彼女の返答に、俺と高城は目を合わせる。

「怪しいな」

「怪しいですね」

「なんですか、怪しいって! 食事に行っただけじゃないですか!」

 彼女は心外だと言わんばかりに声を荒げる。

「捺美となにを話していた」

 俺の問いに、絶句した彼女はソファにもたれかかって天を仰いだ。

「まじ、めんどくせ~。こんな束縛男と結婚したら、そりゃ捺美も逃げ出すわ」

 おい、俺、社長だぞ? その態度と口調はなんだ、と言いたい気持ちをぐっと堪える。

「捺美って呼んでいるのですね。捺美さんはあなたのことをなんと呼んでいたのですか?」

 高城が外面の笑顔を顔に張り付けて優しく聞いた。

「普通に桂木さんですよ。私の方が一個年上だし」

「捺美さんへの呼び方は、ただの同僚にしては親しい呼び方ですよね。捺美さんとは友達ではなかったのですか?」

「別に、私は年下のことは基本呼び捨てだから。敬語も使わないし」

(年上にはせめて敬語を使え)

 とムカムカしながら隣で聞いている。俺が聞くよりも高城が質問した方が素直に答えているので、色々言いたい気持ちはあるが口を噤んだ。

「捺美とは友達ではなかった、あの子なら友達になってもいいかな……とは思っていた」
< 92 / 124 >

この作品をシェア

pagetop