シンデレラは王子様と離婚することになりました。
捺美には知られないように徹底して隠していたが、継娘と継母が会社に乗り込んできたことは何度もある。
 受付には、捺美は会社を辞めたと伝えるように指示し、そして社内では個人情報を漏らさないように通達を出した。
 彼女たちは受付で門前払いをされ、道行くうちの社員に捺美のことを聞きまわっていたそうだが、捺美の情報は漏れなかった。
 まあ、社長の結婚相手の情報を、得体の知れない人間に話すような愚か者はいないだろう。だが、捺美の情報を聞き回っている女性の存在は、社内ではちょっとした噂になっていて、俺の元カノが復讐のために捺美を探しているという事実無根の風評被害を受けたわけだが。
 結婚式に家族を呼ばないというのは、高城とウェディングプランナーは難色を示していたそうだが、それも最初だけで、社内に乗り込んでくる危ない親子が捺美の家族だと高城が知ると、結婚式に呼ぶかどうかの議論は一切なくなった。
 捺美には、携帯電話を解約させ、新しい携帯を持たせるなどの対策の他、朝は俺と出勤、帰りは時間が合えば一緒に帰るし、合わなければ必ずタクシーで帰るようにさせた。
 会社を辞めたと伝えているにも関わらず、彼女たちは毎日のように受付に現われたそうだが、それも一週間程度で終わったらしい。
 さすがにもう諦めたと思っていた。まさか、昼の時間帯を狙って毎日捺美が出てくるのを待っていたとは想定外だ。
 捺美が俺と結婚することを決めた理由は、実家から出るためだ。
 奨学金も返済し、捺美は義務を果たした。捺美は自由になっていいはずだ。
 それなのに、あいつらは……。
 捺美が急にいなくなってから、最初に探したのは実家だ。探偵を雇って張り込みもさせているが、捺美が家から出てきたという情報はない。
 監禁でもされているのだろうか。いや、離婚届けに記入されていた字は、間違いなく捺美の筆跡だ。捺美は、捺美自身の意思で、実家に戻った。
 つまり、実家に突入して無理やり捺美を引きだしたら、罪に問われるのはこちらの方だということだ。
 それに、捺美の意思で実家にいるなら、戻る可能性も高い。あんなに実家から出たがっていたのに、どうして。
 なにがあった? なにを言った、あの女は。

 次の日、捺美のことを頭から追いやって仕事に集中しようとするも、なかなかはかどらない。
 捺美がいた頃は、仕事も絶好調でなんでもできる気がしていたのに。
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