ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
真剣な顔で谷山さんが続ける。
「突然来て、こんなことお願いして本当にごめんなさい。でも、あの子にとって今が一番大事な時期なの。今回高校生だってバレてしまって、でもそれはまだなんとかなる。今一番痛いのは、やっぱり恋人の存在なのよ」
そして彼女は私を気遣うように訊いた。
「さっき、記者に話しかけられたって言ってたけど」
「あ……彼女だろと言われて、でも違いますって答えました。多分、もう諦めてくれたと思います」
なんとかそう答えると、谷山さんはホっとした顔をした。
「そう。良かったわ。もし彼女だって知られてしまったら、きっとあなたももっと辛い目に遭うだろうから」
どきりとする。
「ネット上での誹謗中傷とか、この業界本当に恐ろしいのよ」
怖い顔で睨んできたクラスメイトたち。
そして記者の男をまた思い出して、気が付けば自分の腕を爪痕が残るほど強く掴んでいた。
「勝手なことを言っているのはわかってるの。それでも、あの子のことを想うなら、分かって欲しい。あなた自身のためにも」
「……」
「それを伝えに来たの。このことは勿論、あの子には言ってない」
私は、小さく呟く。
「……少し、考えさせてください」
「えぇ、ありがとう。Kanataの彼女が、あなたみたいな子で良かったわ」
そうして、谷山さんは優しい笑顔で私の肩を撫で去っていた。