ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
ポツポツと、雨が降ってきた。
乾いたアスファルトがどんどん濃い色に染まっていく。
(……わかってる)
ううん、本当はずっとわかってた。
(私なんか、全然釣り合ってないし)
ずっと、わかっていたことなのに。
(支えてあげなきゃなんて、ただの勝手な思い上がり……)
ポロポロと、涙がこぼれ落ちていく。
「好きな人の足枷になんて、なりたくないよぉ……っ」
ひとしきり泣いて、ごしごしと涙を拭う。
「……お迎え、行かなきゃ。――よしっ!」
パンっと頬を叩いて、私は保育園に向かってしっかりと歩き始めた。
「弦樹、絃葉、お待たせ~!」
「りっかねぇ~!」
「りっかねぇ~!」
ふたりが可愛い笑顔で駆け寄ってきて、私はそれを笑顔で迎える。
――大丈夫。
「りっかねぇ、今日もお歌ちゃんと歌えた?」
「間違えなかった~?」
小さな傘からこちらを見上げたふたりに、私は笑顔で答える。
「間違えなかったよ~! もう完璧!」
ほら。いつものように笑顔で話せるし。
「ありがとうございましたー!」
いつものように笑顔で接客だって出来る。
――だから、私は大丈夫。