ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
15曲目「誰が為の」
「別れたって……は? なんで!?」
朝、心配そうに声をかけてきてくれた妹尾くんに奏多くんと別れたことを話すと、彼は大きくショックを受けたような顔をした。
「色々考えて、そう決めたの」
「……わかった。昨日の、あの女になんか酷いこと言われたんでしょ!?」
私は苦笑しながら首を振る。
「酷いことなんて言われてないよ。奏多くんのことも、私のこともちゃんと考えてくれる優しい人だったよ」
信じられないという顔で、彼が言う。
「そんな……だって、りっかちゃんあいつのこと好きなんだよね!?」
どきりとする。
「……好き、だけど……これからは一ファンとして応援しようと思って。だから妹尾くんと一緒!」
笑いながら言うと、彼は目を見開いて声を荒げた。
「全然一緒じゃないでしょ!!」
その声の大きさにびくっと肩が震えてしまった。
「――あ、ごめん」
すぐに謝ってくれた妹尾くんに私はもう一度首を振る。
「ううん。私こそ……あ、だから、もう彼氏のふりとかも大丈夫。本当にありがとうね、妹尾くん!」
笑顔でお礼を言うと、彼はなんだか酷く悔しそうに顔を歪めた。
「りっかちゃん……本当に、それでいいの?」
「……うん。もう決めたの」
もう一度、私は精一杯の笑顔を浮かべた。