ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい


 まずは駅前のファーストフード店でお昼を食べて、その後は少し電車に揺られ流行りのドリンクの専門店に並んだ。
 やっと手に出来たそれを飲みながら人でごった返す繁華街を歩いて、久しぶりにカラオケにも入った。
 妹尾くんの歌声はふたりが言っていた通りで、植松くんは終止爆笑、私と鈴子ちゃんは必死に耳を塞いでいた。

 ――楽しくて、楽しくて、ずっと笑っていられた。

 夕方、スクランブル交差点で青信号に変わるのを待っていると、周囲がざわついた。
 黄色い悲鳴も聞こえてきて、その視線に釣られ大型ビジョンを見上げると、彼が――『Kanata』が大きく映し出されて、私は目を見開く。

 それは以前、彼が話してくれたメンズ化粧品のCMだった。

「――はは、凄いなぁ。もう全然違う世界の人だ」

 なんだか酷く眩しくて、私は目を細めながら呟く。

「りっかちゃん……」

 妹尾くんが小さく私の名を呼んで、私はまた皆に気を遣わせてしまうと急いで別の話題を振った。

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