ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
――すっかり日が落ちて、今日は解散ということになった。
駅で鈴子ちゃんと植松くんと別れて、私は妹尾くんとふたり学校近くの路地を歩いていた。
「今日はほんと楽しかった~! ありがとう、妹尾くん」
「え?」
「私を元気づけようとしてくれたんでしょ?」
「あ……」
バツの悪そうな顔をした彼に、私は笑って言う。
「あとね、妹尾くん。軽音部に誘ってくれて本当にありがとう」
「え……?」
「今軽音部で練習頑張ってるお蔭で、大分気がそれてるっていうか……」
苦笑しながら続ける。
「鈴子ちゃんと植松くんとも仲良くなれたし、今日も久しぶりにこうして思いっきり遊べてほんとに楽しかった! あ、勿論妹尾くんともこうして仲良くなれて嬉しいし」
ちょっと照れながら言う。
でも、そんな私を見る彼の表情がいつもとは違うことに気付いてしまった。
「りっかちゃん。俺じゃダメかな」
「え?」
らしくない真剣な表情で、妹尾くんは続ける。
「俺、ふりじゃなくて、りっかちゃんの本当の彼氏になれないかなって」
「妹尾くん……?」
いきなり過ぎて、悪い冗談なのかと思って首を傾げる。でも……。
「ごめんね、急に。りっかちゃんがまだあいつのこと好きなのわかってるし。……それでもいいんだ」
そして、彼はなんだか泣きそうな笑顔で告げた。
「俺、りっかちゃんのことが好きだ」
私は目を見開いて、でも、その笑顔から視線を逸らしてしまった。
「……わ、私」
「あ、返事は全然急がないから! 学祭終わってからでも、ゆっくり考えてみて」
そう言って、彼はいつもの明るい笑顔を見せてくれた。