ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい


 ――そして、あっという間に学祭当日がやってきた。

 あっという間に私たちの出番前になって、私は体育館の舞台袖でガチガチに緊張していた。

(ヤバい……震えが止まらない……)

 と、その肩をぽんと叩かれた。
 鈴子ちゃんだ。

「大丈夫? いつも通りでいいから」
「う、うん」
「そうそ、いつも通りりっかちゃんは俺らの演奏に合わせて歌うだけでいい」
「出ちゃえばあっという間だよ。楽しんでこ!」

 妹尾くんも植松くんも明るい笑顔で言ってくれて、私はなんとか引きつりまくった笑みを返した。
 そのとき大きな拍手が上がって、前の演目が終わったのだとわかった。

「よし。じゃあ、行こうか!」

 そして、私たちは大きな拍手に迎えられ舞台上に出た。

(いつも通り。いつも通り……!)

 そう自分に言い聞かせながら、マイク前に立つ。
 ゆっくりと顔を上げると、たくさんの観客が見えた。

 ――途端、頭の中が真っ白になった。

 鈴子ちゃんがいつものようにカウントを打って、演奏が始まる。
 何度も何度も練習して、歌い出しは分かっているはずなのに。

 喉に何かつかえたように、声が出なかった。

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