ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
演奏が止まる。
異変に気付いて、観客がざわつき始める。
……どうしよう……。
私のせいで全部台無しにしてしまった。
罪悪感で涙が滲む。
(やっぱり、私にこんな大舞台、無理だったんだ……!)
――私はこれからも羽倉くんのためだけに歌いたいな。
こんなときに思い出したのは、そんな自分の言葉だ。
そのときの彼の嬉しそうな顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ。
私は最初、彼のために歌いたいと思ったんだ。
彼が「歌って」と言ってくれたから、私はまた歌うことが出来た。
忘れかけていた歌うことの楽しさを、思い出すことが出来た。
そしてそれが今、この場所に繋がっている。
それなのに。
今一番聴いて欲しいあなたは、いない……。
(奏多くん……!)
――そのときだった。
「りっか!」