ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
フィナーレ「王子様に捧ぐ歌」
校庭には模擬店がたくさん出ていて生徒や一般客でいっぱいだったけれど、その背の高い、少し猫背な後ろ姿はすぐに見つけられた。
「奏多くん!!」
駆け寄ってその背中に飛びつくと、彼は驚いたようにこちらを振り向いた。
「りっか……?」
「奏多くん! 奏多くん……っ!!」
格好悪く子供のように泣きながら何度も何度もその名を呼ぶ。
「ごめんなさい、私、奏多くんのことが好き。大好き!」
彼の瞳が大きく見開かれる。
「私なんか住む世界が違うって、奏多くんの足枷にはなりたくないって思ったけど、でもやっぱり好きなの! ごめんなさい……っ!」
涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を両手で包んで、彼は私にキスをくれた。
――!
周囲で悲鳴のような声が上がる。
「奏多く……っ」
唇が離れて、強く抱きしめられた。
「……謝るのはこっち。こんなに泣かせて、寂しい思いさせて本当にごめん」
彼はとても苦しそうな顔をしていた。
「俺、マネージャーに色々言われて、りっかのためにも、りっかのこと諦めようと思った。でも、俺が無理だった」
「え……?」
私の頬に手を当て、今にも泣き崩れそうな顔で彼は続ける。
「りっかがいないと、俺ダメなんだ。全然眠れないし、うまく笑えないし、全然仕事にならなくて、マネージャーにも皆にも呆れられた」
そして彼は幸せそうに笑った。
「言ったでしょ。りっかは俺の一番の薬だって」
「……っ!」
「だからりっか、お願い。もう一度、俺のために歌って」
私はもう一度彼に飛びついて大きく頷く。
「うん! 歌うよ、奏多くんのためにこれから何度だって……!」
そして、私たちはお互いの存在を確かめるように強く抱きしめ合った。
……もう絶対に離れない。
これから何があっても彼のために歌い続けようと、私は彼に……『王子様』に誓ったのだった。
――数年後、この日誰かがネットに上げた動画がきっかけとなり『隠れ歌姫』は歌手としてデビュー、王子様と同じ世界に足を踏み入れることになるのだけど……それはまた、別のお話。
END.