ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

「や、だって知られたくないんでしょ?」
『――ふっ』

(え、今もしかして笑った!?)

『お人好し』
「はい!?」
『てっきりすぐに拒否られると思ったのに、夜も、って』

 カーっと顔が熱くなる。

「だ、だって、不眠症って辛そうだし、いつもクマ酷いから……」
『やっぱりお人好しだ』
「……っ」

 言い返せなかった。
 それになんだか彼の声がいつもよりも優しい気がして……。

『じゃあ、そんなお人好しの小野さんに俺からもうひとつ、お願い』
「え」
『りっか』

 急な名前呼びにドキリとする。

『――って、俺も呼んでいい?』
「べっ、別に、構わないけど……」
『じゃあ……りっか。歌って』

 そのとき少し声が籠って聞こえて、羽倉くんが横になったのがわかった。

「う、うん」

 そして私は静かに子守唄を歌い始める。

 ――でも、少ししてから気付いた。 

(そういえば、電話だと眠れたかどうかわからないな)

「……羽倉くん?」

 小さく声をかけてみたけれど、返事がない。

(眠れたんだよね?)

「おやすみ、羽倉くん」

 そう言って私は通話を切った。
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