ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

 彼がにや~っと笑い、私はさーっと血の気が引いていくのを感じた。

「おっじゃましました~!」
「ちょ、待っ……!」

 手を伸ばす。しかし妹尾くんはそのまま行ってしまった。
 羽倉くんは全く起きる気配がなくて。

(ど、どどどうしよう。あの妹尾くんに見られた……!)

 ――妹尾楽翔(せのおがくと)
 いつもチャラい派手な格好をしていて、イケメンだけど女癖が悪いことでも有名な男子。

(絶対、みんなにバラすじゃん!)

 クラス一陽キャな彼が、教室に戻ってこのことを皆に話さないわけがない。

(一番最悪な奴に見られたんじゃ……)

 と、そこで予鈴が鳴った。

「羽倉くん、起きて!」
「ん~」

 むくりと起き上がった羽倉くんに言う。

「今ね、妹尾くんに見られちゃった」
「せのー? ……あぁ、あいつか」
「どうしよう、今頃絶対皆に言いふらしてるよ」
「別に、いいんじゃない」

 サラっと言って羽倉くんは欠伸をしながら階段を下りていく。

「いいんじゃないって……」
「じゃあ、今夜もよろしく、りっか」

 そう言い残して彼は行ってしまった。

「え……」

(えぇ~~~~?)

 ひとり残された私は心の中でそんな情けない声を上げていた。

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