ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
私は残っていたお弁当のおかずを素早く口に入れて、教室を出た。
向かう先は<立ち入り禁止>の立札が置かれた屋上への階段。
誰も見ていないことを確認して私はその階段を上っていく。――と。
「遅い」
そんな低音が降ってきて顔を上げると、階段一番上に座った羽倉くんがこちらを見下ろしていた。
「早く。眠い」
「……かしこまりました」
ため息混じりで答えながら階段を上りきり、彼の隣に腰を下ろす。
と、そんな私の膝を枕に彼はごろんと横になった。
「歌って」
「は~い」
そうして私は命令通りに小さく子守唄を歌い始める。
……少しして、羽倉くんが寝息を立て始めて私は歌うのをやめた。
ふうと息をついて、人の膝の上で穏やかな顔で眠っている彼を見下ろす。
長い前髪の隙間から覗く酷いクマ。セクシーだと言われていたホクロもそのクマのせいでほとんどわからない。
(相変わらず酷いな。……はぁ。こんなことになって、もう一ヶ月になるのかぁ)