ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

 私は思い切って言う。

「いいよ」
「え?」
「言いふらしてもいいよ」

 そしてまた前に向き直り階段を上っていくと、妹尾くんの少し焦ったような声が追ってきた。

「え~? そうなの?」
「だから、もうこういうのは――」

 階段をのぼりきったところでもう一度振り返り、私はそこで言葉を切った。
 妹尾くんの後ろに、いつの間にか羽倉くんがいた。
 眼鏡のレンズ越しに目が合って、途端、自分の顔が真っ赤になるのがわかる。

 と、妹尾くんがそちらを振り返って手を上げた。

「あぁ、羽倉。おは~」
「……」

 でも羽倉くんはそんな妹尾くんを追い越しこちらに上がってくる。

「あれぇ、無視~?」

 そんなふうに言われても羽倉くんは妹尾くんには目もくれず私に言った。

「おはよう」
「お、おはよ」

 笑顔が少し不自然になってしまったかもしれない。
 でも羽倉くんは低い声で続けた。

「行こう、りっか」
「う、うん」

 言われて彼について教室へ向かうと、背後で妹尾くんの少し笑ったような声が聞こえた気がした。



(ひぃ~なんか緊張した~)

 自分の席に腰を下ろしてふぅと小さく息を吐く。
 羽倉くんの方をちらっと見ると、特にいつもと変わらない様子で。

(なんか、私だけがドキドキしてるみたい……やっぱ昨日のアレは、告白じゃなかったのかな……?)
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