ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「っと、ここで時間切れか~中休み短すぎん?」
ギターを片づけながら妹尾くんは続ける。
「返事は急がないからさ、ちょっと考えてみてよ」
「……」
「あ、俺と付き合う話もね」
「や、それはこの間困るって」
「残念~。でも『それは』ってことは、ボーカルの件は望みありかな?」
「……っ」
私の反応を見て、妹尾くんは笑った。
「とりま教室戻ろっか!」
「……」
私は鼻歌交じりで教室へ向かう妹尾くんの後ろを歩きながら考える。
(ボーカル……かぁ)
――歌は大好きだ。
中学の頃はコーラス部に入っていたし、カラオケに行くのも大好きだった。
でも、中3のときにお父さんが私たち家族を置いて急に出て行ってしまって、そんな時間なくなってしまった……。
(歌ってみたい……けど……)
授業を受けながら、はぁと知らず溜息が漏れていた。
そして、今日も昼休みがやってきた。
お弁当を食べながら羽倉くんがいつものように猫背で教室を出ていくのを横目で見送る。
(というか、羽倉くんとこ行くの緊張するなぁ)
ついまた昨夜のことを思い出してしまい、顔が熱くなった。
(まだ、答え出てないし……)
でも行かなきゃと、私はパパっとお弁当を片づけて教室を出た。