ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい


「さっき、妹尾とどこ行ってたの」
「え?」

 いつものように羽倉くんの隣に座ると、唐突にそう訊かれ私は目を瞬いた。 

「あ、あぁ。えっと、軽音部の部室」

 隠すことでもないので答えると羽倉くんは少し眉を寄せた。

「軽音部?」
「なんか、いきなりボーカルやらないかって誘われて」

 ハハと苦笑する。

「びっくりしちゃった」
「それで?」
「うーん、実はちょっと迷い中。歌うのは好きだし」

 自分の手元を見ながら、そう正直に答えたときだ。

「……ダメ」
「え?」

 顔を上げると、真剣な瞳とぶつかった。

「そんなのダメだ」
「!?」

 こちらに身を乗り出してきた彼に驚き、私は慌てて距離をとる。

「羽倉くん、ち、近いよ!」

 でも彼はそんな私の両肩を掴んで引き寄せ、もう一度告げた。

「りっかの歌は、俺だけのもの」
「!?」
「他の奴らの前で、歌わないで」

 とにかく顔が近くて、そしてその顔が良くて。

「――わ、わかった。わかったから!」

(心臓がもちません……!)
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