ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
――1ヶ月前。
「いらっしゃいませ~!」
その日、私は家から程近いコンビニでアルバイトをしていた。
本当はうちの高校はバイト禁止なのだけれど、いわゆる家庭の事情というやつで内緒で夕方から夜10時まで働いている。
と、検品に行っていた大学生の先輩が慌てたようにレジに戻ってきた。
「ねぇ、あれってもしかしてモデルのKanataじゃない!?」
「え?」
「絶対そうだって! うわ~超ラッキーなんだけど! やっぱ顔がいい~~!」
私はドリンクコーナーを眺めている長身の彼を見つめる。
(へぇ、あれが噂の王子様……確かに顔は良いけど……ん? でも誰かに似てるような……?)
その横顔を見た瞬間ふとそんなふうに思ったけれど、このときは気のせいだろうと思った。
私はKanataのファンだという先輩にレジをお願いし、代わりに検品に行くことにした。
彼がレジに行き、棚の間から目をハートにして接客する先輩を微笑ましく見つめていたのだけど。
「ありがとうございました~♡」
彼が店を出て行った後だ。
(ん?)
私はレジ前に定期入れらしきものが落ちているのを見つけてしまった。
「え、ちょ……っ」
先輩に行ってもらおうかとも思ったけれど、どんどん遠のいていく背中を見て私は焦ってそれを追いかけた。