ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
すると肩を掴んでいる彼の手が緩んで、ほっとした。――次の瞬間。
「いっ……!」
再び引き寄せられたと思ったら首筋にちくりとした痛みが走った。
キスをされたのだと気付いて、私は驚いて彼を突き放す。
「な、な……」
首筋を押さえて口をパクパクさせていると、彼はムスっとした顔で言った。
「朝、あいつにされてたから」
「あ、あれは違うよ! 耳に」
「耳?」
すると今度は耳にキスをされて。
「――っ!」
ぎゅうっと目を瞑る。
恥ずかしすぎて、なんだかじわりと涙まで出てきた。
「……ごめん」
耳元で低く囁くように彼は続ける。
「でも、もう他の奴に触れさせないで」
「え……」
――まただ。
昨夜と同じ、切なげな表情。
「じゃないと、止まれなくなる」
彼の端正な顔がゆっくりと近づいてくる。
唇が触れ合う。――寸前。
予鈴が鳴って、私は勢いよく立ち上がった。
「――い、行かなきゃ!」
そのまま、羽倉くんを残し階段をバタバタと駆け下りていく。
(ひえぇぇぇ……!? 今、羽倉くんと、き、キスしそうになっちゃったーー!?)