ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
6曲目「本当の彼」
(ダメだ、午後の授業、全然集中出来なかった……)
帰りのHRが終わり、私は溜息を吐きながら席を立った。
なんだかまだ顔が火照っている気がする。
……あの後、一度も羽倉くんの方を見れていない。
「りっかちゃん」
と、妹尾くんが手を振りこちらにやって来た。
「この後どう? ちょっとだけでも」
「あ……」
(そうだ、軽音部の……)
私は思い切って頭を下げる。
「ごめん。やっぱり弦樹たちを早く迎えにいってあげたくて」
「そっかぁ……わかった。仕方ないよね」
「ほんと、ごめん」
残念そうに、でも笑ってくれた妹尾くんにもう一度頭を下げる。
と、顔を上げたそのときだ。一瞬、妹尾くんの顔が強張った気がした。
その視線は私の首の辺りを見ていて。
「妹尾くん?」
「え? あ、ううん」
でも妹尾くんは、すぐにまた笑顔に戻った。
「土日もうち活動してるからさ、気が向いたら来てよ、部室」
「う、うん……」
「じゃ、弦樹くんと絃葉ちゃんによろしくね~」
そうして妹尾くんは手を振り教室を出ていった。
私は笑顔で手を振り返して。
(妹尾くん、悪い人ではないんだよね)
私も帰ろうと席を離れたそのとき、羽倉くんとばっちり目が合ってしまった。
ボッと一気に顔が熱くなって、慌てて目を反らす。
(バカ、私! 今のはあからさま過ぎ!!)
私はそのまま駆け足で教室を出た。
(ごめん羽倉くん! でもでも、恥ずかしすぎてムリ~~!)