ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
私は小さく深呼吸をして、今の正直な気持ちを話すことにした。
「……なんで、私なのかなって」
『え?』
「羽倉くんの周りってキレイな子多いと思うし、私なんて全然普通っていうか、全然釣り合ってないっていうか……」
と、電話の向こうで彼が小さく笑った気がした。
『……俺なんて、ただ背がデカいだけの陰キャだよ』
「そ、そんなこと……! だって、あんなにカッコいいのに」
『Kanataはね。メイクさんやスタイリストさんたちがすごく頑張って作ってくれた姿だから。俺だけど、俺じゃない』
意外過ぎるその言葉に驚いて、私は何も言えなかった。
『ただの俺は、いつまで経っても自分に自信が持てない暗い奴で……。でも、りっかだけは他の誰にも渡したくないって思ったんだ」
どきりと胸が鳴る。
『――去年、1年のとき、初めてりっかを見た時から』
「え?」
(去年……?)
1年のとき羽倉くんとは別のクラスで、私が羽倉くんのことを知ったのは2年で同じクラスになってからだ。
『偶然、りっかが弟たちと一緒にいるところを見かけて』
「!」
『そのとき、りっかは泣いちゃった弟をおんぶして子守唄を歌ってあげてて、それを見て、あぁ、いいなぁって思ったんだ。……一目惚れってやつ?』
私は目を見開く。
『それから、同じクラスになれてラッキーって思ったんだけど、俺普段こんなだし、話すきっかけが全然見つからなくて……Kanataの姿ならって……』
じわじわと顔が熱くなっていく。
『こうやって話せるようになって、りっかのお人好しなとことか、家族思いなとことか知れて、どんどん俺の中で気持ちが大きくなっていって。……でも、妹尾の奴と話してるとこ見ると、どうしても抑えがきかなくなって……ごめん、俺相当キモいね』