ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
と、バチっと目が合ってしまった。
「なに?」
「え!? えーっと、……あ、昨日はあの後、眠れたかなって」
慌てて訊くと、羽倉くんは前に向き直って言った。
「あぁ……実は今日りっかに会えるのが楽しみで、あまり眠れなかった」
「……っ!」
その横顔が、少し照れているように見えて。
「だから、昼休み、またよろしく」
「うん、わかった!」
私は笑顔で頷いた。
(――そのときに、私の気持ち、ちゃんと伝えよう!)
「おは~、りっかちゃん!」
昇降口に入ると、下駄箱の影から妹尾くんがひょっこりと顔を出した。
でも。
「って、なんだよ、お前も一緒かよ」
「……」
羽倉くんを見た途端、その笑顔はつまらなそうな表情に変わった。
羽倉くんはそんな妹尾くんを無言で見返していて、なんだかハラハラした。
「まぁいいや、丁度良かった」
妹尾くんは羽倉くんに向かって柄悪く続ける。
「羽倉、お前に話があんだよ。放課後、体育館裏な」
「!?」
「……」
思わず私が驚いてしまったけれど、羽倉くんは表情を変えずただ妹尾くんを見つめていて。
「来なかったら……わかってるよな?」
そんな意味深な発言をして、妹尾くんは私に手を振って去っていってしまった。
「な、なんだろう」
「さぁ」
特に気にした様子なく羽倉くんは下駄箱に靴を入れている。
「放課後、体育館裏行くの?」
「……」
羽倉くんからの答えはなかった。