ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

「ありがとう。羽倉くん」
「え?」
「気持ち、すごく嬉しい」
「りっか……」

 羽倉くんを見上げて、笑顔で言う。

「でも、羽倉くんが嫌がることは私もしたくないし。というか、そもそもボーカルなんて柄じゃないし! 大勢の前でなんて緊張しちゃってきっと歌えないよ!」
「……本当に、いいの?」
「うん。私はこれからも羽倉くんのためだけに歌いたいな~、なんて」

 少し照れながら笑う。
 すると、今度は彼の方から抱きしめてくれた。

「りっか……ありがとう」
「ううん」

 私もその背中に腕を回す。

「……ねぇ、りっか」
「なに?」
「日曜日、ふたりでどこか行かない?」
「え?」

 顔を上げると、彼がはにかむように微笑んでいた。

「俺、その日一日オフなんだけど、りっかは?」
「あ、えっと、日曜日は午前中バイトで、午後は空いてる、けど……」
「じゃあ、空けといて」
「うん、わかった!」

 頷くと、彼の大きな手が私の頬に触れてドキリとする。
 優しく細められた瞳に見つめられて、それが合図のように私はゆっくり目を閉じた。
 そして、キス。
 3度目のそれは、まだ恥ずかしさはあるけれど一番自然に出来た気がした。 

「今日は本当にありがとう。送ってくれて」
「夜、またお願いしていい?」
「うん! 電話するね」

 そうして、私は手を振り彼を見送った。
 彼の姿が見えなくなって、じわじわと顔に熱が集まってくる。

(ふたりでどこかにって……それって、デートってやつですか……!?)

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