ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
お湯に浸かって、私はほぅと息を吐く。
(デートかぁ。何着てこう)
人生初のデートだ。
緊張しそうだけど、やっぱり楽しみが勝る。
(……でも、本当にいいのかなぁ、私で)
先ほどの将来についての会話を思い出して私は口元までお湯に浸かる。
(やっぱ、はっきり言って全然釣り合ってないよねぇ……)
向こうは『令和の王子様』と称される人気モデルで、こちらはどこにでもいる平凡女子。
ぶくぶくと泡を吐き出してから、ザバっと勢いよく顔を出す。
「いやいや、付き合った初日からこんな不安になってどうすんの!」
思わず自分にツッコミを入れる。
それでも、羽倉くんはこんな私を好きになってくれたのだ。
(ちょっと、スキンシップ激し目な気もするけど……)
昼間のキスを思い出してまた顔が熱くなる。
(……もしかして、羽倉くんは初めてじゃなかったのかな……?)
そんなことを考えてしまい、私はぶんぶん首を振った。
(ダメだダメだ! もう考えるのやめよ!)
そして私はお風呂から出た。
彼の声を聞けば、こんな不安はすぐに消し飛ぶはずだ。
――でも。