ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
弦樹が続ける。
「外国のカレシ、あれから全然来ねーし」
「あ、あ~~」
(妹尾くんのことかぁ)
脱力し、私は苦笑する。
「前にも言ったけど、あの人は彼氏じゃなくて、ただの友達」
「そうなの? りっかねぇフラれてない?」
心配そうなふたりの頭を撫でて私は笑顔で頷く。
「フラれてないよ。大丈夫」
するとふたりはやっとほっとしたみたいだった。
そんなふたりに微笑んで、でもやっぱり昼間見たあの記事のことが頭から離れなかった。
(大丈夫……だよね?)
――バイト中は気が紛れると思ったのだけど。
「小野さん見たー? Kanataのあの記事」
お客さんが途切れたタイミングでKanataファンの先輩がそう話しかけてきた。
私は苦笑しながら答える。
「はい。びっくりですね」
「ねー! びっくりっていうかショックっていうか、やっぱ芸能人は芸能人同士がいいのかね~」
そうぼやいて先輩は検品に行ってしまった。
(芸能人は、芸能人同士、か……)
ちくりと胸が痛んで、レジでひとり溜息を吐く。
と、そのときドアが開いて入店音が鳴った。
「いらっしゃいませ……っ!」
そちらを見て私は驚く。
入ってきたのは羽倉くんだった。