ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
Kanataの姿ではない、いつも学校で見る眼鏡とマスクをしたラフな格好の彼は、私と目が合うと少し気まずそうに微笑んだ。
(羽倉くん……)
いつもなら嬉しいのに、いつもとは違う緊張を覚えた。
彼は飲み物を持ってレジにやってきて、先輩にバレないよう普通に会計を済ませる。
「ありがとうございました」
「外で待ってるから」
「う、うん」
小声で言われて、私は出来る限りの笑顔で頷く。
そうして、彼は店を出て行った。
(なんか、いつもより顔色悪い……?)
「Kanata!?」
「!?」
いつの間にか先輩が自動ドアの前にいて、今出て行った彼の後ろ姿をじっと見つめていた。
でも。
「って違うか~。背ぇ高いからまたKanataが来てくれたんだと思ったのにな~」
そうして先輩は肩を落とし戻っていってしまった。
全く気付いていない様子の先輩に苦笑して、私は掛け時計を見上げた。
バイトが終わるまで、あと10分程だ。
私は小さく深呼吸をして、その時が来るのを待った。