ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「……ごめん、不安にさせて」
唇が離れて、私は首を振る。
「ううん、こっちこそごめん。最初っからこんなんで……。私、自分で思ってたよりめんどくさい女かも」
そうして苦笑する。
すると、羽倉くんは私のまだ涙の残る目元にキスをして、もう一度優しく抱きしめてくれた。
「俺には、りっかだけだから」
「うん……」
「それに。俺、今りっかの泣き顔見てすげー好きって思った」
「え?」
「俺、自分で思ってたより最低な男かも」
顔を見合わせて、ふたり一緒に吹き出した。
(あったかい……不安が全部解けてく……)
しばらくの間、お互いの温もりを確かめるように私たちは抱きしめ合った。
手を繋いで静かな住宅街を歩きながら、私はあっと声を上げる。
「そうだ。妹尾くんがね」
「妹尾?」
「お大事にって」
「?」
昼間のことを思い出してふふと笑う。
「今日羽倉くんが学校休んだの、自分のせいかもって思っちゃったみたいで」
「あいつが?」
「そう、だから普通に体調悪いみたいだよって言っておいたけど」
「……そう」
「意外といい奴だよね。Kanataのこともね、公式が認めないと俺は信じねーって。ファンの鏡じゃない?」
と、羽倉くんは黙ってしまって、私は首を傾げる。