ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

「りっかー! これからカラオケ行くんだけど、一緒行かない?」

 HRが終わって帰る支度をしていると、クラスメイトからそんな声が掛かった。
 カラオケは大好きだ。でも……。

「ごめーん、保育園迎えに行かなきゃならないんだ」
「あ、そっか、こっちこそごめん!」
「ううん、また今度誘って~!」

 誘ってくれた子に笑顔で手を振って、私は足早に教室を出た。

 そう、私には年の離れた弟と妹がいる。

弦樹(げんき)絃葉(いとは)! お待たせー!」
「りっか姉ぇー!」
「りっか姉ぇー!」

 保育園に到着すると、双子の弦樹と絃葉がバタバタと私に駆け寄ってきた。
 うちは母子家庭で、お母さんはパートで帰りが遅くなるからいつも私がこの子たちのお迎えをしているのだ。

「こらー! 家の中で走っちゃだめって言ってるでしょ!」

 自宅アパートに帰り、キッチンで夕飯の支度をしながら走り回って遊んでいるふたりを注意していると、ガチャンと玄関ドアの鍵が開く音がした。

「ただいま~!」
「ママ~おかえりなさい~」
「ママ~おかえりなさい~」

 お母さんは荷物を置くとすぐにエプロンを着けキッチンに入ってきた。

「おかえりなさい」
「ありがとう律花、代わるわ。もうバイトでしょ?」
「うん。ちょっと食べてから行くよ」

 そうして、私は軽く食べてからバイト先のコンビニに向かった。
 ……高校がバイト禁止なのはお母さんには言っていない。
 少しでもお母さんを助けたくて自分から始めたことだからだ。

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