ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「お願い、りっかちゃん! やっぱうちのボーカルお願いします!」
「えぇ!?」
――翌朝、昇降口で待っていた妹尾くんにパンっと手を合わせられて私は困惑する。
すぐ隣では奏多くんがぶすっとした顔をしていて。
「一生のお願い!」
(一生のお願いって、久しぶりに聞いたなぁ)
妹尾くんは必死そうに続ける。
「学祭で演奏すんだけど、やっぱどうしてもボーカル見つかんなくて」
「学祭!? いやいや、いきなりそんなの無理だよ!」
「じゃあ、試しに一度だけ! 一度でいいからうちで歌ってみて!」
「えぇ……」
(どうしよう。妹尾くん本気で困ってるっぽいし……でも、この間歌わないって言ったばっかりだしなぁ)
奏多くんの方をちらり見上げるとやっぱりいい顔はしていなくて。
と、そんな私たちを見て妹尾くんは言った。
「わかった! なんなら羽倉も一緒でいいから」
「俺、オンチだけど」
「お前に歌えなんて言ってねぇよ! りっかちゃんのことが心配なら、見張りとして一緒に来てもいいって意味だ」
「……」
「頼む!」
もう一度パンっと手を合わせた妹尾くんを前に、私たちは顔を見合わせた。