ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
11曲目「軽音部」
「ホントありがとね、りっかちゃん! マジ感謝!!」
昼休み、前を行く妹尾くんがこちらを振り向き何度目か拝むように手を合わせた。
「まだやるって決めたわけじゃ……」
「わかってるって! 試しに一曲ね!」
――結局、試しに一曲だけという約束で、私は再び軽音部の部室へと向かっていた。
(奏多くんもいいよって言ってくれたし……ものすっごく不機嫌そうだけど)
ちらりと隣を歩く奏多くんを見るとやっぱりムスっとした顔をしていて。
(ま、歌ってみて全然ダメだってわかれば妹尾くんも諦めてくれるだろうし)
このときは、そんなふうに軽く考えていた。
部室前に到着し、妹尾くんがガラっと勢いよくドアを開ける。
「お待ちー!」
「おー、待ってたしー!」
中からそんな明るい声が返ってきて、私も妹尾くんに続いて中に入る。
「その子が新しいボーカル候補?」
そう言って私に視線を向けたのは優しそうな顔立ちの男の子だった。
明るい茶髪を短くツーブロックにした彼は、この間妹尾くんが見せてくれたギターよりも少し大きめの楽器を肩に掛けていた。
そしてその隣、ドラムセットの奥に座ったショートカットの女の子を見て私は驚く。