ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
妹尾くんの視線を受け、私はなんとか入るタイミングを間違えずに歌い始めることが出来た。
歌声よりも自分の心臓の音の方が大きい気がして不安になる。
でも、徐々に身体が音に馴染んでいくのがわかった。あんなに大きく感じた心音が気にならなくなっていく。
スピーカーから聞こえてくる自分の歌声が皆の演奏に乗ってどんどん大きくなっていく。
(楽しい……!)
自然と笑顔になっていた。
皆も楽しそうに演奏しているのが伝わってきて嬉しかった。
気が付けば、あっという間に一曲歌い終わっていた。
ふぅと息を吐くと、背後でわーっと大きな拍手が上がって驚く。
振り返れば、いつの間にか部室前の廊下に人だかりが出来ていた。
「いいじゃん軽音部ー!」
「ヒューーっ!」
「最高ーー!!」
知らない生徒たちに言われてカーッと顔が熱くなる。
と、妹尾くんがそんな彼らに大きく手を振った。
「学祭で演奏すっからよろー!」
「おぉー!」
「絶対行くわー!」
そうして彼らは去っていった。
(び、びっくりした……)
と、再びパチパチと拍手が聞こえた。
植松くんだ。
「うん、すごく良かった」
「だ~ろ~!? やっぱりっかちゃんの歌声良いわ~! 俺の耳に狂いはなかった。いやガチで期待以上!」
「あ、ありがとう」
照れながらふたりにお礼を言う。