ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい


「やってみなよ」
「え?」

 軽音部の部室を出て教室に戻る途中、奏多くんが言った。
 妹尾くんたちは機材を片づけてから戻るそうだ。
 見上げると、彼は優しく微笑んでいた。

「マイク持って歌ってるりっか、すごく生き生きしてた」
「奏多くん……でも、」

 ついこの間、彼に歌わないと言ったばかりだ。

「楽しかったんでしょ?」
「それは……」

 少し間を置いて、私は正直に頷く。

「うん。……やっぱり、歌うのは好きだなぁって」
「俺も、歌ってるりっかが好きだよ」

 どきりとする。
 奏多くんが笑顔で続けた。

「だから、彼氏として、応援する」
「奏多くん……っ」

 じいんと感動してしまう。
 私は胸の前で指を組み合わせて小さく言う。

「……じゃあ、頑張って、みようかな……家族にも相談しなきゃだけど」
「まぁ、結局妹尾にりっかをとられたみたいで、そこだけ気にくわないんだけど」
「え」

 急な低音に驚き見れば彼から黒いオーラが滲み出ていて慌てる。
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