ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい

 ――でも、コンビニバイトというのは思っていたよりも大変で……。

「遅ぇな! 他に店員いないのかよ!」
「申し訳ありません! もう少々お待ちください!」

 ついさっき先輩から少し遅れると連絡が来て、丁度ひとりのときに限ってレジが混んでしまった。
 最後尾から飛んできた怒鳴り声に私は慌てて謝る。

「こっちは時間ねぇんだよ! なんのためのコンビニだよ!!」
「も、申し訳ありません、もう少々お待ちください!」

(先輩早く来てください~!)

 泣きそうになりながらも、なんとかひとりレジを回していると。

「待った分、負けろよ」
「え……」

 いつの間にか、先ほどの怒鳴り声の主の番になっていた。
 サラリーマン風の赤ら顔の男は、お酒の匂いをさせてこちらを見下ろし続けた。

「あんたのせいで、こっちは貴重な時間を大分ロスしちまったんだよ。だから、負けろ」
「い、いえ、それは……」

 そんなこと、バイトの私に出来るわけがない。

「出来ないって言うのかよ!」
「っ!」

 また大きな声で怒鳴られびくりと肩を竦めた、そのときだ。

「なぁ」
「あ? ――!?」

 今度びくっと肩を震わせたのはその男の方だった。
 彼のすぐ背後に長身の影。

(羽倉くん……?)

 ――いや、Kanataが立っていた。
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