ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
13曲目「スキャンダル」
「ねえ、Kanataがうちの生徒ってマジ?」
「うちにあんなイケメンいたっけ?」
聞こえてきたそんな声にハッと我に返る。
(ど、どうしよう、どうしよう……!)
ひとまず教室に向かおうとしたときだ。
「りっかちゃん」
「!?」
覚えのある声にぎくりとして、ゆっくり振り返ると。
「ちょっといい?」
やたらと良い笑顔の妹尾くんが手で「おいで」をしていた。
無言のままついて行った先は、軽音部の部室だった。
私が中に入ると妹尾くんはドアを閉めて、こちらに背を向けたまま口を開いた。
「俺、前に言ったじゃん、公式が認めてない記事は信じないって」
「う、うん」
やっぱりその話題だよね……と思いながら私は頷く。
すると彼は振り返り、笑顔で続けた。
「だから今回のも信じてないんだけどさ。……あいつが、Kanataなわけないよな?」
「え、えっと……」
この間の鈴子ちゃんのときのように、「そんなわけないじゃん」とは返せなかった。
あんなにうちの生徒だとはっきりとわかる写真があるのに、これ以上妹尾くんに嘘はつけなかった。
(でも今更、『実はそうだよ』なんて、言えるわけない……)