ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
その長身と冷ややかな眼力に客の男は気圧されたように一歩後退った。
「な、なんだ、お前は」
「あんたと同じ客だけど。時間ないって言いながら随分長いなと思って」
「なっ」
「あと、そんなに大きな声出さなくても聞こえてると思うし、すごく格好悪いからやめた方がいいと思う」
「な、なんだと!?」
男は元々赤い顔を更に赤くして羽倉くんに掴みかかった。
でも寸前その腕をがしりと掴まれ、男は格好悪く呻き声をあげた。
「いでででっ!」
「喧嘩なら店出よう。ここだと迷惑になるから」
「!? ――こ、こんなサービスのなってねぇ店二度と来るか!!」
羽倉くんの手を振り払い、商品を置いたままその客の男は逃げるようにして去っていってしまった。
それを呆然と見送って、ハっと我に返る。
「あ、ありがとう!」
お礼を言うと羽倉くんはトンっとペットボトルをカウンターに置いた。
「これ」
「あ、うん!」
羽倉くんが最後のお客さんみたいでほっとしつつ会計を済ます。
「……この時間ひとりって危なくない?」
「え? あぁ、今だけひとりになっちゃって。もうすぐ先輩が来るはずなんだけど。だから本当に助かっちゃった」
「そう。頑張って」
「うん、ありがとう」
そうして背を向けた羽倉くんに、私は思い切って声をかけた。
「……ちょ、ちょっと待って!」