ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「……?」
自宅アパートの下で見知らぬ男性が煙草を吸っていて私は眉をひそめた。
……この時間こんな場所で何をしているのだろう。
不審に思いながら、少し駆け足でその前を通り過ぎようとすると。
「あんた、小野律花さんかい?」
「え……?」
驚いて足を止める。
「私、こういうものだけど」
名刺を出され恐る恐る受け取って見れば、有名な雑誌の記者だとわかりザっと血の気が引いた。
「あんた、Kanataの彼女さんでしょ? ちょっと話聞かせてくれないかな」
「――ち、違います! 失礼します」
焦って駆け出すと、大きな声が追ってきた。
「お金ならたくさん出すからさ~」
「……っ」
私はそれを無視して急いで部屋に入った。
ガチャン、としっかり鍵とドアチェーンを掛け、震えている自分の身体を抱きしめそのまま玄関にしゃがみ込む。
(怖かった……なんで、私の家にまで……?)
恐怖で、しばらくその場から動けなかった。