ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
14曲目「決断」
いつもの時間になって、スマホを手にすーはーと深呼吸をする。
「よし」
通話ボタンをタップする。
すると奏多くんはすぐに出てくれた。
「奏多くん?」
『りっか』
その嬉しそうな声を聞いて、ほっとする。
私は普段通りに話し始めた。
「事務所ってベッドとかあるの?」
『簡易ベッドだけどね、一応あるよ』
「そうなんだ。良かった。お仕事とか、大丈夫そう?」
『うん、いつかはこうなるかもって、事務所も色々考えてくれてたみたいで、思ったほど混乱はしてないみたい』
「そう。良かった」
『……りっかは、本当に大丈夫?』
「えっ」
先ほどの記者を思い出してどきりとする。
悟られないように、私は笑顔で答える。
「大丈夫。――あ、そうそう妹尾くんがね、今度奏多くんに会えたら謝りたいって」
『謝られてもなぁ……』
困ったような声が返ってきてついふふと笑ってしまう。
「あとね、鈴子ちゃん、あ、新居さんは奏多くんがKanataだって気付いてたみたい」
『あー、あの時やたら見てきたもんな、そうだったんだ。……軽音部、楽しい?』
「楽しいよ。鈴子ちゃんとも仲良くなれたし、学祭まであと少しだから、練習も大詰めって感じ」
『そっか。頑張ってね。俺も、見に行けたらいいんだけどな』
「あ、そっか……。今奏多くんが学校来たらきっと大騒ぎになっちゃうもんね……」
『でもりっかの歌聴きたいし、なんとかして行くから』
「ほんと? 嬉しい」