ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
電話越しでも奏多くんと話していると心がほっとした。
自然と笑顔になれた。
『……やっぱり、りっかと話してると落ち着く』
「! 私も」
同じことを考えていたと嬉しくなった。
『歌って、りっか』
「うん」
そして私は心をこめて子守唄を歌い始める。
(奏多くんが、ちゃんと眠れますように……)
「おやすみ、奏多くん」
通話を切ると、途端に先ほどのことが思い出されてまた身体に震えが走った。
(でも言えるわけない。大丈夫。きっと今だけ……)
自分に言い聞かせて、私は無理やりに眠った。
――翌朝。
恐る恐るアパートのドアを開けると、あの記者はいなくなっていて私はほっと胸を撫でおろした。
(良かった……)
「律花―! 今日夕方から雨だって言ってたから傘持っていきなさいねー!」
「大丈夫、折り畳み持ってるからー!」
お母さんの声にそう答えて、私は学校へと向かった。
――でも。
校門が見えてきたあたりで、ギクリと足が止まった。
まだ数人いる記者たちの中に、あの男の姿があったのだ。