ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
男は私を見つけると近づいてきて気怠げに手を上げた。
「おはようさん。小野律花さん。昨日の、考えてくれた?」
「いえ、私ほんと関係ないので」
そう顔も見ずに答えて、早足に学校へと向かう。
でも男はしつこかった。
「あんた随分帰り遅いんだね。どこかでアルバイトとかしてるの? それとも遊んでるの?」
「ついて来ないでください!」
「Kanataとはどこまで行ってる関係? もうえっちとかしちゃったのかなぁ?」
「!!」
自分の顔が真っ赤に染まるのがわかった。
――そのときだ。
「ちょっと、人の彼女に近づかないでくれっかな。下衆なおっさんよ」
私と男の間に柄悪く立ちはだかったのは。
「妹尾く……」
と、男は眉をひそめ妹尾くんに言った。
「彼女? 君が? 小野律花さんはKanataの彼女でしょ?」
「りっかちゃんは俺の彼女だし。記者のくせしてガセネタに踊らされてんの? 恥ずかし。――行こう、りっかちゃん」
そうして手を引かれ、私は頷いた。
「う、うん」
記者の男はそんな私たちを見てちっと舌打ちをし、去っていった。
……昨日みたいに身体の震えが止まらなくて、妹尾くんにそれが伝わっていないといいと思った。