ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「ありがとう、妹尾くん」
昇降口に入ったところで手が離れ、私はお礼を言う。
すると妹尾くんは怖い顔で言った。
「あれ、いつから?」
「……昨日の夜、家に来て」
「マジで!? このこと羽倉には?」
首を横に振る。
「こんなことで心配かけたくないし」
「はぁ~」
妹尾くんは大きな溜息を吐いた。
「わかった。あいつがいない間は俺がりっかちゃんを守る」
「そんな……私がしっかりすればいいだけだから」
「い~や、守る。だって、りっかちゃんはうちの大事なボーカルだからね!」
驚く私に、彼はにっと笑って続けた。
「それにりっかちゃんは俺の推しの彼女なんだから。これは俺の推し活でもあるわけ」
それを聞いて思わず笑いがこみ上げた。
「あはは、妹尾くん、ほんとKanataが好きなんだね」
「ま~ね~。あ、でもあいつには内緒にしといてね、恥ずかし過ぎてマジ死ねるから」
そうして、私たちは教室へと向かった。
――いつの間にか、身体の震えは治まっていた。