ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい
「なにそれ、こっわ。誰かがチクったってこと?」
「片っ端から生徒に声掛けてるみたいだしなぁ」
放課後、窓から校門の方を見ながら鈴子ちゃんと植松くんが顔をしかめた。
昨日よりは減っているけれど、まだ記者らしき人たちがここから見える。
と、妹尾くんがそんなふたりに言った。
「そういうわけで、俺この後一旦抜けて途中までりっかちゃん送ってくからさ」
「あー、その方がいいかもね」
「ごめんね、ほんと。学祭近いのに……」
「言ったでしょ。りっかちゃんは俺らの大事なボーカルなんだから。よーし! 張り切って練習しよー!」
そして、私たちは今日も練習を始めた。
……歌っているときは不安も忘れられた。
本番まであと少し、精一杯頑張ろうと思った。
今にも降り出しそうなどんよりとした空の下、妹尾くんは本当に校門の少し先まで一緒について来てくれた。
あの男の姿はなくてほっとして彼に謝る。
「ホントごめんね」
「気にしない気にしない!」
と、そのとき前方からスーツ姿でメガネをかけた綺麗な女性がやって来るのに気が付いた。
また記者だろうかと視線を合わせないようにしていると。
「あなた、小野律花さんよね?」
「え……」
またフルネームで呼ばれてどきりとする。