エリート同期は独占欲を隠さない
二章
一月某日。
晴天に恵まれ、絶好の旅行日和となった。空には冬の雲が浮かび、太陽の当たる場所は、春を感じさせるほど暖かい。
社員たちは集合場所である会社の前で、バスが到着するのを荷物片手に待っていた。
「いい天気でよかったねー、近藤」
そんな気候も相まって、未尋は今日も一段と元気がいい。同僚である営業事務の近藤可南子と、楽しそうにおしゃべりをしている。桐谷はそんな未尋を、静かに見つめていた。
昨日、半ば怒り気味で帰ってしまった未尋だったが、どうやら機嫌は直ったようだ。桐谷は未尋を捉えたまま、ホッとため息を落とした。
あれから桐谷と明智は、男同士で飲んでいた。未尋が出て行ったドアを見つめたまま呆然としていると「桐谷。いいのかよ、これで」と、明智に叱られた。
ただの同期だと思っていた未尋に、特別な感情を抱き始めるとは思いもしなかった桐谷は、どんな態度をとったらいいのか、わからなくなっていたのだ。
「おはよ、桐谷」
昨夜のことを思い返していると、ぽんと肩を叩かれた。振り返れば、ダウンジャケットにマフラーと、防寒対策バッチリな明智だった。
「明智、おはよ。昨日は付き合わせて悪かったな」
「構わんよ。あれ? 今日の市ヶ谷、可愛いじゃん。見たか?」
「あぁ」
「へぇ、やっぱ女子って服装で変わるな」
明智がおしゃべりに夢中な未尋を、舐めるような視線で見ている。それだけで、腹の底がムカッとするのを感じていた。
桐谷もここに着いた時から、今日の未尋は可愛らしいと感じていた。春色のワンピースに、ジャケットを羽織っていて、いつもと全く違う雰囲気に思わず息をのんだくらいだ。
未尋は普段、パンツスーツが多い。だからあんなヒラヒラした格好をしているのを見たのは、今日が初めてかもしれない。
もしかして誰かのためだったり? 勝手にそんな想像して、勝手にムカついていると、明智が小突きながら言った。
「桐谷、この旅行で一気に仕掛けるのもありだぞ?」
「何言ってんだよ。旅行とはいえ、仕事の一環だろ」
「真面目か!」