エリート同期は独占欲を隠さない
「何言って……」
最初は状況がよく理解できていない様子だったが、桐谷の腕の中で冷静をとりもどしたようで、キョトン顔が安堵の表情に変わるのがわかった。
「俺の彼女に近づかないでもらえる」
「は? なんだよ、もう新しい男かよ」
すごみが効いたのか、男はチッと舌打ちをこぼしながらいそいそと駆けて行った。
「ありがとう、桐谷。助かった」
「大丈夫か? つうか、誰あれ」
「元カレ。少し前に別れたんだけどしつこくて……」
そう口にする未尋の目には涙が僅かに浮かんでいた。だがこういう時ですら強がるのも未尋で、
「あのくらい自分で撃退しろって話だよね、情けない」
へへっと頼りなく笑う。
その姿に、思わずドキッとしてしまった。同時に、いつもパワフルで色気皆無だった未尋が、ただのか弱い女性で守るべき存在なのだと知ってしまった。
(……嘘だろ、なんで市ヶ谷相手にドキドキしてるんだ)
「じゃあね、桐谷」
「待って……送るよ」
動揺を悟られないよう、平然とした口調で告げる。
「いいよ」
「いいから。黙って送らせろ。なんかあったら目覚め悪いだろ」
「はいはい、わかりましたよーだ、エリート同期様」
それから未尋を家まで送ったのだが、その道中はいつもの未尋だった。
どこの飯がうまいとか、上司のデコの後退がやばいとか、くだらない話ばかりしていた。だが桐谷は違った。頼りなく笑う未尋の顔が、頭にこびりついて離れなかったのだ。
あれ以来、灯り始めた感情が自分の中にあることに気づき、うまく接することができないでいる。