エリート同期は独占欲を隠さない
三章
(――私という人間は、やはり 意地を張るということができないらしい)
旅館についてわずか数分でそのことを痛感する。
桐谷にしつこく話しかけないと決めたくせに、隣のお風呂にいると分かった瞬間、嬉しくなって声をかけてしまった。
あのあと、近藤に散々バカにされ、顔が真っ赤だとも指摘された。熱いお湯につかっていたせいだと言うも「本当にそれだけ~?」とのんびりした口調でなじられた。
いやいや、それ以外に何があると言うのだ。桐谷はただの同期、そして友達。それ以外の感情があるはずがない。
最近素っ気なくされて寂しい気持ちもあるが、それはきっと明智にされたって同じことを思うだろう。桐谷が特別なわけじゃない。
「はぁ~気持ちよかった」
お風呂を上がると、上機嫌でロビーを歩く。湯上りの二人はほんのり頬が赤く染まり、惜しげなく披露されるうなじがなまめかしい。そんな浴衣姿の二人を、別の団体の男性陣がちらちらと見ている。
「いい出会いないかなぁ」
それを察し、近藤がスナイパーのような目で見定めている。