エリート同期は独占欲を隠さない
「でも……」
うーんと悩んでいると、手元からするりと部屋の鍵が落ちた。
「あ、やば。鍵が」
しゃがみこみ、慌ててそれを拾う。その刹那、見覚えのある香りが近づいてくることに気がついた。
しゃがんだまま見上げれば、息を切らした桐谷が前に立っていた。そして未尋に、もっていた羽織をばさっとかける。
「着ろ」
「え?」
「いいから」
突然現れて、着ろと言う桐谷の心情がよくわからないまま、素直にそれに袖を通す。しかも秋吉に向かって「あの」とやや物騒な声で話かけていた。
「悪いけど、俺らと約束してるんで」
桐谷が秋吉に向かって淡々と告げる。未尋はそれをキョトンとした顔で見ていた。
(――え? 約束なんてしてないじゃん)
「あ、そうなんすね。すみません。じゃあな、未尋」
「う、うん」
秋吉たちはそそくさと行ってしまった。
いったいなんなんだ。近藤はチッと舌打ちしているし。さっきの儚げな女の演技はどうしたと突っ込みたくなる。
すると、桐谷がくるっと体を反転させ未尋を見た。そして思いっきり嘆息しながら口を開く。
「お前な、簡単についていくなよ」