エリート同期は独占欲を隠さない

「でも……」

うーんと悩んでいると、手元からするりと部屋の鍵が落ちた。

「あ、やば。鍵が」

しゃがみこみ、慌ててそれを拾う。その刹那、見覚えのある香りが近づいてくることに気がついた。

しゃがんだまま見上げれば、息を切らした桐谷が前に立っていた。そして未尋に、もっていた羽織をばさっとかける。

「着ろ」
「え?」
「いいから」

突然現れて、着ろと言う桐谷の心情がよくわからないまま、素直にそれに袖を通す。しかも秋吉に向かって「あの」とやや物騒な声で話かけていた。

「悪いけど、俺らと約束してるんで」

桐谷が秋吉に向かって淡々と告げる。未尋はそれをキョトンとした顔で見ていた。

(――え? 約束なんてしてないじゃん)

「あ、そうなんすね。すみません。じゃあな、未尋」
「う、うん」

秋吉たちはそそくさと行ってしまった。

いったいなんなんだ。近藤はチッと舌打ちしているし。さっきの儚げな女の演技はどうしたと突っ込みたくなる。

すると、桐谷がくるっと体を反転させ未尋を見た。そして思いっきり嘆息しながら口を開く。

「お前な、簡単についていくなよ」
< 37 / 74 >

この作品をシェア

pagetop