エリート同期は独占欲を隠さない
◇◇◇
その夜。
未尋はいつもの提灯がぶら下がる、煙臭い居酒屋へと来ていた。会社から近く、安くて美味しいというところがお気に入りで、飲むときはここと決まっている。
「で、来ないって? 桐谷」
「わかんない。まだ仕事してたから、先行ってるよとは声かけたんだけど、素っ気ない態度で追い払われた。まじなんなのあいつ。腹立つ」
カウンター席で、ビール片手にもう一人の同期、明智に愚痴る。
メタルフレームの眼鏡が良く似合う明智は、ちょっと軽薄なところもあるが、聞き上手で、世話焼きな男。
未尋が酔ったときは介抱してくれ、困ったときは相談にも乗ってくる。二七歳と同い年だが、未尋にとってお兄ちゃん的存在といってもいい。
「最近おかしいんだよね、桐谷。なんか避けられてるっていうか」
「この前、市ヶ谷が、桐谷のこと無理やり襲ったからじゃない?」
「え! 嘘!」
明智の発言に、思わず素っ頓狂な声が上がる。
「いつ? 私、何した?」
あたふたしながら、隣に座る明智を揺さぶる。
どうしよう。まったく記憶にない! きっととんでもなく酔っていたのだろう。
まさかそれで桐谷は怒っているのだろうか?それは悪いことをしてしまった。謝らなければと青くなっていると、隣からクスクスと笑う声が聞こえハッとした。